キャリバー解説 キャリバー解説

Patek Philippe Caliber 12-SC

Patek Philippe Caliber 12-SC

12-SC 仕様

キャリバー径 26.75mm 厚み 4.0mm
生産年 1940年 生産終了 1950年
生産数 4500pce以内 石数 20石
振動数 5振動 毎時振動数 18,000振動
持続時間 40時間弱 テンプ チラネジ付きモノメタルテンプ
ヒゲゼンマイ ブレゲヒゲゼンマイ 搭載モデル カラトラバRef.1491

手巻き。
Cal.12'''-120をベースにインダイレクト(間接駆動)方式でセンターセコンド用に変更したキャリバー。4番車を出車にし、ブリッジと歯車を介してセンターまで誘導するといった、非常にユニークな輪列構造を持つ。

設計にはパテックフィリップ向けにもコンプリケーションを多く設計したヴィクトラン・ピゲがその設計を担当したと言われ、その独自性、希少性からコレクター間では非常に人気が高い。



1.地板 2.一番受 3.二番受 4.三番受
5.ガンギ受 6.中受 7.香箱 8.角穴車
9.丸穴車 10.丸穴座 11.二番車 12.三番車
13.四番車 14.ガンギ車 15.アンクル 16.テンプ
17.上四番車(出車) 18.上四番中間車 19.秒車 20.上四番中間車バネ
21.筒カナ 22.筒車 23.日ノ裏車 24.小鉄中間車
25.小鉄車 26.日ノ裏押え 27.アンクル受け

まずはテンプ周辺から。
微調整装置付きの緩急針が目に入ります。
特徴的なデザインで、一般的にスワンネックと称されるバネは受けに対し、一杯のサイズで配されています。


上下の受け石はまだ耐震装置がなく、固定式なのは、40年代に製造されたムーブメントであることを物語っています。
ヒゲ持ちは2つのネジを用い、上からカバーで止めるタイプで、ヒゲゼンマイの調整に対して自由度が高く、古くからごく一部の高級ムーブメントにのみ見られる機構です 。

時計が時を刻む為の心臓部とも言えるテンプ(16)。
テンプを構成する主な部品は"テン輪"と"ヒゲゼンマイ"です。


ヒゲゼンマイはベースとなったCal.12-120共々当初は平ヒゲを採用していましたが、途中から巻き上げヒゲ(ブレゲヒゲ)に改良されます。
テン輪は'30年代頃からモノメタルを採用し始めます。
チラネジは現代の目には古典的なデザインに写りますが、当時としては正しい時間を刻む為の調整にはまだ重要な部品だったのです。

ガンギ車までの回転運動を往復運動として、テンプに伝える重要な役割を持つのがアンクル(15)です。
表面はポリッシュ仕上げで、パーツの外周は全て面取りがなされています。

ガンギ車(14)はその歯先が鍵状になっているのが特徴的です。


その歯先の形状も一般的なアンクルより多くの面によって構成され、大変手間がかかっている事が伺えます。

リューズからの力を、香箱(7)に納められているゼンマイまで伝える為の部品が、角穴車(8)と丸穴車(9)です。


パテックフィリップのムーブメントでは、伝統的に一番受の下に配置されているために、表からはほとんど見る事が出来ない部品でもあります。 角穴車と丸穴車が噛み合うための歯先が一風変わった形をしているのに注目してください。 これはウルフトゥース(WolfTooth)と言って、大型の懐中時計のムーブメントに見られるデザインです。

一番受(2)は香箱を保持する為に一番大きな受であり、そのお陰でムーブメントに関する様々な情報が刻印されています。


主な意味は、温度誤差、等時性、および5姿勢による調整、石数、ムーブメントの製造番号、そしてパテックフィリップ製であることなどです。

ベースムーブメントであるCal.12-120は、当時の極めて常識的な設計の手巻き式ムーブメントと言えるでしょう。定められたスペースに最大限の香箱と最大限のテンプを配し、中心から二番車(11)、三番車(12)と各輪列を配置しています。


これにより持続時間に十分なゼンマイの長さと強さを、また耐久性に十分な各歯車の大きさを確保しているわけです。


アンクルが地板(1)の一段深いところに配置されている様子がうかがえます。
アンクルの左右の動きを規制する"ドテ"が地板に直接削り出されている形になっています。
通常は2本の細い柱が地板に植え込まれるか、アンクル受け(27)にその役割を持たせますので非常に凝ったデザインです。


逆に言えば厚みのあるしっかりした地板だからこそ出来た訳で、アンクルや四番車(13)の場所までそれぞれ削り込まれ、 削り込まれた個所は"ペルラージュ"仕上げとなっているのも目を見張るところです。

 

続いて、Cal.12-SCの要の部品とも言えるのがこの伝え車(18)でしょう。


ご覧の様にその姿は、クロノグラフに於けるクロノグラフ車への力の伝達を司るクラッチレバーとほぼ同様です。

中央の秒針車(19)への力を伝達するにあたり、パテックフィリップとヴィクトラン・ピゲは上四番車(出車)をクロノグラフと同じく四番車の真を伸ばす事で取り付け、 秒針車は二番受(3)に新たに中受(6)を取り付け、その連結を伝え車を配する事で解決しています。


この部分のみの歯車の配置具合をクローズアップして見ると、ますますクロノグラフの様な雰囲気です。


元々スモールセコンドのムーブメントを、センターセコンド仕様にする方法と言うのは、三番車に出車を取り付け、その次に秒カナとする事が一般的です。
その方法なら追加の歯車は2つで良いですから、仕組みとしてはずっと簡便です。


ところがCal.12-SCの場合、出車の取り付けは四番車です。四番車は一分間に一周する秒針車であるので、中央の秒針車と出車の歯数は同じでなくてはなりませんし、当然回転方向を合わせる為に伝え車が必要になり、 またその歯数もおなじにしなくてはなりません。
部品点数とそれらを配置する為のスペースはどうしても最小限と言う訳にはいきません。

ではなぜパテックフィリップはこの方法を採用したのでしょう?

実はその一般的な三番車からの出車方式には欠点があり、歯車が少ない秒カナ車は秒針のふらつきが発生しやすく、 ふらつきを防止する為には押えバネを秒カナ車に強く当てなくてはならず、これが時にテンプの振り落ちにつながる可能性があるのです。
その点において四番車からの出車方式は秒針車の歯数が多く取れる為に秒針のふらつきが無く、押えバネを使わずに済むことでテンプの振り落ちも回避出来るのです。

ここで私が想像するのは常に最善の方法を追求するパテックフィリップの思想です。

市場で急速に望まれたセンターセコンド仕様のパテックフィリップ(カラトラバ)に、 本来なら専用設計のムーブメントが一番だと言う事は理解しつつも、まずは手持ちのCal.12-120を使って改良と言う形で市場に答えたのではないでしょうか。 しかしそれは急造などでは決して無く、その時点でパテックフィリップの最良の解答だったのでは、と私はこのムーブメントを分解してみて思ったのです。

12-SC 搭載モデル


カラトラバRef.1491
ブランド PATEK PHILIPPE
Ref 1491
Cal 12-SC
年式 1945
コンディション Near Mint - 多少の使用感、目立ったキズなし

パテックフィリップ社は、創業以来、人の生活にとって欠かせない時の印しをより正確に、又 美術品とも言える構造開発に惜しまず労を費やして来ました。

19世紀、機械式時計は、やや大きめのパーツで構成された懐中時計が主流で、時の計測から分を割り出し、分の計測から秒を割り出す開発へと進展されました 。

20世紀に入ると、腕に装着出来る時計が開発されて、人々を魅了し、懐中時計の需要は年月を重ねるごとに減少してきましたが、搭載されるメカニカルについては、母体である、懐中用時計の基本構造を着実に小型化したスモールセコンド式の腕時計が多く、パテックフィリップ社においても 1930年代に入ってから初めて名機12-120に構造改革を加えてこの12SCを世に送り出しました。

総数4500ピース弱と数えられるこのキャリバーは、母体ムーブメント12-120をインダイレクト(間接駆動)方式で、 4番車を出車にして、ブリッジと歯車を介してセンター迄、誘導するといったとてもユニークな構造になっていて、 設計に携わったヴィクトラン ピゲの功績を世に残した名キャリバーと言えます。

Ref.1491は、カバードと迄はいかない左右一体式の巻き込みラグが最大の特徴ですがスモールセコンド式搭載の多いモデルにあって、視認性の高いブルースティール センターセコンド針、ダイアル、ボーダーラインにブループリントで刻まれた、アラビックのミニットインデックス、力強いドーフィン針、アップライトのパテックフィリップにも&Coが表記され、年代を想わせながらも、非常に状態が良くデザインを配慮した、素晴らしいビィンテージと自負させて頂きます。

第二次世界大戦において焼失してしまった時計も有ったかと想うと一体何ピースが世に残されている事でしょう?

仕様

ブランド パテックフィリップ
商品名 カラトラバ
型番 Ref. 1491
キャリバー Cal. 12-SC
年式 1945
サイズ 33mm
ダイアルカラー アイボリー
ムーブメント 手巻き
ガラス素材 クリスタル
ケース素材 YG
ベルト素材 黒アリゲータ
仕様・特徴
コンディション B: 多少の使用感があるがほとんど目立ったキズはない状態

Cal.12-SC ムービー

コンテンツ提供: PP TIMES SQUARE   時計技術者: Arai

※このコンテンツは2009年にPatek Philippe Owners Club会員に提供されたものです。